2005年
2005年10月20日
燃料電池に適用可能な「固体状メタノール」を世界で初めて開発しました
栗田工業株式会社(本社:東京都新宿区 社長:藤野 宏)は、ダイレクトメタノール形燃料電池(以下 DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)の燃料である液体メタノールに包接化合技術を適用し、液体メタノールの安全性・携帯性の問題を改善した「固体状メタノール」を世界で初めて開発しました。
○固体状メタノール開発の背景
DMFCは、一般的に知られている水素を燃料とする燃料電池とは異なり、メタノールを燃料として発電するもので、水素を貯蔵する高圧水素タンクや水素製造改質器などが不要となるため、小型・軽量化が可能です。そのため、主に家電メーカーによって携帯電話やノートパソコンといったモバイル機器の電源に適用できるものとして、実用化が進められています。しかし、その燃料となるメタノールは常温常圧下では揮発性の可燃性液体で、引火しやすいという特性を持っています。そのため、液漏れによって製品の稼動障害を引き起こす危険性があるだけでなく、メタノール(原体)は消防法で危険物に、毒劇物法で劇物に指定され、さらに航空機への持込みが制限されるなど、運用上様々な制約があり、それがDMFCの実用化を進めていく上で重要な課題の一つとなっていました。
○固体状メタノールについて
今回の固体状メタノールは、ゲスト化合物であるメタノールをホスト化合物に取り込ませるという包接化合技術によって、固体状にしています。包接化合技術については、当社は約20年来水処理薬品に適用しており、冷却水薬品や紙パプロセス薬品などで独自の商品を開発してきました。
固体状とすることによりメタノールの揮発性を抑制し、危険物・劇物の指定や、航空機への持込み制限を回避するだけでなく、液漏れ防止も可能となりました。また、今回開発した固体状メタノールに水を接触させると、水側にメタノールが放出され、これを燃料としてDMFCが発電することを既に確認しています。
固体状メタノールの特長は以下の通りです。
- 高い安全性
- 固体状のため揮発せず、引火点も高いため危険物・劇物の指定を受けない
- 高い携帯性
- 固体状のため液漏れしない
- ビーズやペレット、シートなど様々な形に加工できる
- リサイクル可能
- 燃料として使用後、ホスト化合物とメタノールを再度反応させることによってリサイクルできる
○固体状メタノールの販売時期
DMFCは、2007年には実用化され、2010年頃には市場として顕在化してくると言われています。当社では、パソコンやモバイル機器メーカーと共同して、2007年を目処に固体状メタノール燃料の販売を開始し、一定のシェアを確保していきたいと考えています。
○今後の展開
今回当社が開発した固体状メタノールについては、DMFCに適用する基本特許ならびに周辺特許について既に複数出願済みであり、一部はすでに公開されています。また、固体状メタノールは「メタノール包接化合物」として携帯機器用燃料電池関連の安全性国際標準規格へ登録される予定です。
今後は、モバイル機器搭載型DMFCの実用化を進めている家電メーカーと共同で事業化に向けて本格的な取組みを開始します。なお、当社では固体状メタノールを内蔵したカートリッジを使用して携帯電話が充電できる外付け電源システムの試作機も製作しており、10月26日(水)~29日(土)にインテックス大阪(大阪府大阪市)で開催される「ニューアース2005」展の弊社ブースに展示する予定です。
さらに、現在大きな課題となっている水素の貯蔵方法についても、包接化合技術の応用によって固体状メタノールと同様に安全に貯蔵できる技術の開発にも取り組んでおり(基本特許および周辺特許をすでに複数出願済み)、水素貯蔵技術への展開も図っていく予定です。
<包接化合技術>
分子の集合体、または空孔を持つ分子(ホスト)の中に、他の分子(ゲスト)が一定の組成比で組み込まれ、特定の結晶構造を形成している包接化合物を作る技術。化学物質の組み合わせによって、危険物の安定化や物質の効力を長期間持続させるといった効果がある。芳香剤や消臭剤など、家庭用品にも適用されている。
<ダイレクトメタノール形燃料電池>
直接メタノールを供給し、化学反応により発電する方式。燃料極でメタノールが水と反応し二酸化炭素、水素イオン、電子ができる。水素イオンは電解質膜を通って空気極へ移動し、外部回路を流れた電子、空気中の酸素と反応して水となる。
以上