Press Release

2008年

2008年6月19日

塩素化エチレンを原位置で分解・無害化する「バイオオーグメンテーション」法を開発
国内初の指針適合(経済産業省・環境省)

栗田工業株式会社(本社:東京都新宿区 社長:藤野 宏)は、土壌・地下水中の塩素化エチレンを無害なエチレンにまで分解・無害化するバイオ浄化法「バイオオーグメンテーション」を開発し、6月9日、塩素化エチレンを原位置で分解・無害化できる技術としては国内で初めて、経済産業省および環境省の「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」の適合確認を受けました。
既に当社は、土壌中の分解菌の働きを利用して汚染物質を分解・無害化するバイオスティミュレーション技術を開発しており、国内において数多くの浄化実績があります。さらに今回、「バイオオーグメンテーション」法の開発により、今まで対象敷地内に分解菌が存在せず、従来までのバイオ浄化法が適用できなかったサイト(国内の揮発性有機化合物に汚染された土地の約3割)において適用が可能になりました。また従来のバイオ浄化法に比べ、浄化期間を最大で1/2程度まで削減でき、浄化コストを最大で3割程度削減できる(当社比)ことから、当社では、今回の指針適合の確認を受け、揮発性有機化合物による汚染土壌・地下水の浄化市場を対象に、「バイオオーグメンテーション」法による受注拡大に取り組んでいく考えです。

1. 開発の経緯

近年、トリクロロエチレンなどの塩素化エチレンで汚染された土壌・地下水を浄化する技術として、嫌気性微生物を利用したバイオ浄化法(バイオレメディエーション)を適用する事例が増えています。バイオレメディエーションには、工場や建物がある状態でも浄化可能であり、掘削除去に比べ低コスト(1/10程度)という特長があります。このバイオレメディエーションの中でも多く用いられているのが、バイオスティミュレーションと呼ばれる方法で、もともとその現場に生息している分解菌を利用して汚染された土地を浄化するものです。しかしながらバイオスティミュレーションでは、分解菌が生息していない現場(国内の揮発性有機化合物に汚染された土地の約3割)には適用できないという問題がありました。
これに対し当社は、平成14年8月から(平成19年2月まで)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「生分解・処理メカニズムの解析と制御技術の開発」プロジェクトに参画し、予め培養した分解菌を地下に注入する技術(バイオオーグメンテーション)の開発を進めてきました。平成18年3月から経済産業省・環境省の適合審査を受けながら、平成20年6月、地下水中の塩素化エチレンを原位置でエチレンにまで分解・無害化できる技術としては国内で初めて、「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」の適合確認を、経済産業大臣および環境大臣より受けました。

  • バイオオーグメンテーションと従来法であるバイオスティミュレーションの違い
バイオレメディエーション 微生物などの働きを利用して汚染物質を分解することによって、土壌、地下水等の汚染の浄化を図る技術の総称。
バイオスティミュレーション バイオレメディエーションのうち、栄養剤等を加えて浄化場所に生息している微生物を活性化することにより浄化を行う方法。
バイオオーグメンテーション バイオレメディエーションのうち、外部で培養した微生物を栄養剤等と一緒に土壌中に注入することにより浄化を行う方法。

2. バイオオーグメンテーション法の特長

  • (1)分解菌が生息していないサイトにも、バイオレメディエーションが適用可能となります。
  • (2)従来のバイオスティミュレーションでは、浄化に1年程度の期間を要しましたが、バイオオーグメンテーションでは分解菌の増殖期間を短縮できるため、浄化期間を最大で半分程度まで短縮することが可能となります(当社比)。
  • (3)従来のバイオスティミュレーションに比べ、最大で3割程度浄化コストを低減できます(当社比)。
  • (4)従来のバイオスティミュレーションでは、分解菌の種類によって、土壌中の汚染物質である塩素化エチレンを完全には分解できず、中間の生成物である毒性の高い塩化ビニルモノマーが蓄積してしまう場合がありました。当社がバイオオーグメンテーションに用いる微生物群は、塩化ビニルモノマーを分解できる分解菌(デハロコッコイデス属細菌)を優占的に含んでおり、無害なエチレンまで確実に分解・無害化できます。

▲デハロコッコイデス属細菌によるトリクロロエチレンの分解モデル

バイオオーグメンテーションに利用する微生物群の電子顕微鏡写真

▲バイオオーグメンテーションに利用する微生物群の電子顕微鏡写真

3. 「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」適合について

  • (1)指針概要

本指針は、平成17年3月に経済産業省および環境省により、バイオオーグメンテーションを実施する際の安全性の確保に万全を期すために、設定されたものです。具体的には、生態系への影響や、人への健康影響に配慮した適正な安全性評価手法・管理手法のための基本的要件の考え方を示し、バイオレメディエーション事業の一層の健全な発展およびバイオレメディエーションの利用の拡大を通じた環境保全に資することを目的としています。

  • (2)当社の指針適合について

当社は、本指針の適合確認の3例目となりますが、土壌汚染物質である塩素化エチレンを原位置でエチレンにまで分解・無害化する技術としては、国内で初めての適合確認事例となります。
当社の指針適合のポイントとしては、塩素化エチレンを無害なエチレンまで分解できる唯一の分解菌であるデハロコッコイデス属細菌を適用したことは前述のとおりです。しかし本菌を単独で純粋培養することは非常に難しく、本菌を利用するには、本菌に水素(生育するためのエネルギー)を供給する他の細菌も共存させた「複合微生物系」を構築することが重要なカギを握ります。当社では、デハロコッコイデス属細菌を安定的に維持できる独自の培養法を開発し(特許出願中)、さらに培養物の安全性を入念に確認した結果、本指針の要件を満たすデハロコッコイデス属細菌の「複合微生物系」の構築に成功し、デハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションを国内で初めて可能としました。

4. バイオオーグメンテーションの市場と今後の展開について

土壌・地下水調査および浄化、土地取引なども含め土壌・地下水浄化全体の市場規模は、2,000億円程度といわれています。そのうち浄化対象物質を有害な塩素化エチレンなどを含む揮発性有機化合物としたバイオレメディエーションの3年後の市場を、年間100億円程度と推定しています。 当社では、その市場の中で、従来のバイオ浄化法に比べ浄化期間が短く、浄化コストも低いバイオオーグメンテーション法を積極的に拡販し、3年後には年間50億円程度の受注を目指していきます。

以上